2012年7月24日火曜日

レイチェル・コリー・ダルバ ヴァイオリン・リサイタル

ストラディヴァリウスを引っ提げて登場したのはティツィアーノの髪色の黒いドレスの女性。ピアノはクリスティアン・シャモレル。 まず、シューマン 「ヴァイオリンソナタ2番」そしてイザイ「無伴奏ソナタ3番 バラード」休憩後はイザィ「無伴奏ソナタ5番」とフランク「ソナタ」 今日のプログラムはイザイの無伴奏ソナタ全曲の予定だった。イザイ全曲を聴く機会はめったにないから喜んでいたのが、彼女のたっての希望でピアニストのシャモレルとの共演となって少しがっかりした。別にそれでも悪いプログラムではない。しかし、イザイが聴きたかった。始まると一曲目のシューマンの冒頭からあっという間に彼女の世界に引き込まれた。完璧なテクニック、強烈な個性、何よりも名器から紡ぎだされる色彩感。ストラディヴァリウスはほかのどの楽器とも違う、音の種類の豊富なことで知られる。ただし、それを引き出すことの出来るのは名人に限る。我々風情が弾いても音が出ないと聞く。あるいは、誰が弾いても素晴らしいとも聞く。どちらが本当か触ったこともないからわからない。でも、多分、音が出せるのは名人だけと言うのが本当だと思う。私の楽器はストラデヴァリウスには及ぶべくもないが、それでも私の生徒たちは音が出せない。音大受験の生徒に貸してあげようと思ったら、全く音が出ないのでビックリした。向こうの方が大曲をバリバリ弾いてのけるのに、音を出すことに関してはまだまだ修行が足りんわい、エヘンとやっと先生の面目を保つことが出来た。だからストラディヴァリウスもたぶん私なんかでは手も足も出ないと想像するに難くない。その名器からはこんな繊細な音からこんな壮大な音まで出るのかと驚くほどの様々な音が飛び出して、捕えられてしまったように一音たりとも聞き逃せない。音に溺れてしまった。イザイの無伴奏の中でも一番好きなのが「バラード」この曲を初めて聴いたのはオイストラッフのレコードだったけれど、聴いた途端雷に打たれたようにショックを受けた。なんて素晴らしい曲!その演奏が耳に残っているので、今日の演奏はまるで違う曲かと思うくらいの個性の違いだったけれど、それはそれで新鮮な驚きだった。とにかく目を見張るテクニックのすごさ。イザイの無伴奏は非常に難しい。ヴァイオリン曲の中でも難曲に位置するけれど、いとも易々と弾いてのけたので、知らない人は変わった曲だけど簡単そうだと思ったに違いない。私のうちにはイザイの珍しい録音が残っている。その上手さと言ったら・・・古い録音技術でも音の格調の高さに驚かされる。この上手さだからあんな難しい曲を作曲してしまったのだ。コンサートが終わっての帰り道、ふといつもの満足感が無いことに気が付いた。あんなに素晴らしかったのに・・・そうか、いつもは演奏を聴くだけなのに、今日は演奏の中に入ってしまったのだ。なにか自分が弾いてでもいたように感じてしまったのだ。彼女の強力な集中力が私に及ぼした影響はまるでブラックホールのようで、すっかりそこに飲み込まれていたのだ。

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